今回おふろ部では、東京都市大学の早坂信哉教授にインタビューを行い、おふろにまつわるノウハウをご教示いただきました。
【前編】【中編】【後編】の三部作に分けてお届けします。
東京都市大学人間科学部教授・博士(医学)・温泉療法専門医
早坂信哉
宮城県での高齢者医療の経験から入浴の重要性に気づき4万人以上の入浴を調査した、入浴や温泉に関する医学的研究の第一人者。「世界一受けたい授業」「あさイチ」「チコちゃんに叱られる!」などテレビやラジオ、新聞や講演など多方面で活躍中。著書「入浴検定公式テキスト」(日本入浴協会)、「最高の入浴法」(大和書房)「おうち時間を快適に過ごす入浴は究極の疲労回復術 」(山と溪谷社)など。東京都市大学ではゼミでおふろ部学生の指導もしている。
前編・中編はこちらよりご覧ください!
【早坂教授インタビュー】入浴のプロが答えるいいおふろとは?(前編)
【早坂教授インタビュー】入浴のプロが答えるいいおふろとは?(中編)
⑥入浴はうつ病の予防になるという論文を2023年7月に発表されていますよね。今後の高齢化社会で入浴はどのように貢献していけるとお考えですか?
ノーリツ:これまでたくさん病気の予防について実験をされ、エビデンスを残されているかと思うのですが、今後の大きなテーマとして、高齢化社会の中でどういう風におふろが貢献されていくと思いますか。
早坂教授:昔は平均寿命を伸ばすということを大きな課題としており、それに対しての対策をしてきたおかげで日本人は世界的に見ても平均寿命は常に上位にあります。ただ今は平均寿命よりも健康寿命が1番注目されているんですよ。健康で長生きなのがベストであり、その健康な状態を維持するのがおふろであると思っています。
前編で入浴は介護予防になるというお話しをさせていただきましたが、他にも心筋梗塞を約3割防げることも他の先生方の研究で分かってきています。またメンタル面でいうとうつ病予防にもなるというのも私たちの研究で分かっています。今後の高齢化社会の中ではいかに健康寿命を伸ばすかが大事だと思っていますが、合わせて医療費の適正化や削減、介護費の削減なども関係してくると思いますね。
ノーリツ:おふろ部ではいくつかの自治体様とも一緒に活動をしているのですが、医療費や介護費を抑えるためにもおふろや銭湯の活用をすすめたいという考えを聞くことがあります。なので切実なテーマであるのかなと感じています。入浴の良さは健康事業という観点でもたくさん発信していきたなと思いました。
早坂教授:例えば、統計的に沖縄県は浴槽での入浴率が低いとされています。一方で他の県と比べて平均寿命の順位が最近下がってきているんですよね。昔は長寿の島とも呼ばれていましたが、現在では特に男性は平均よりも下回ってしまっているんです。
今は自宅に浴槽が付いているのがだいぶ当たり前になっていますが、子供の頃におふろに入る習慣がなかった方達が高齢になった時、その影響が出てきているのではないか、とも推測をしています。
ノーリツ:かつて、住宅公社(自治体や政令指定都市の出資によって設立された公社が管理している住宅)もあまりおふろをすすめていなかったです。最近はユニットバスも普及していますが、バスタブがない住宅も多く、シャワーが基本になっている人も多いです。
早坂教授:なので湯船での入浴習慣をしっかり付けてもらう、ということが非常に大事だと思います。
⑦最近、海外にも研究を発表されていますが、何か狙いがあるのでしょうか?
ノーリツ:最近では海外でもご活躍されていると聞いていますが、何か理由はあるのでしょうか。
早坂教授:海外向けの記事をいくつか出してはしますが、どちらかというと海外メディアから取材を受けることが多いです。そして私は、論文に関してはただ翻訳するのではなく、できれば英語で書くということをした方がいいと思っているんです。
海外の方に対しておふろの良さを発信していく理由として、日本ではこんなにもおふろが健康にとってプラスの生活習慣であると言われているのに、他の国ではまだまだ知れ渡っていないんですよね。なので海外の方が読んでも納得できるような、おふろという生活習慣を輸出できれば良いなと思っています。
またおふろ製品に関しても、この生活習慣が身につけば商品の輸出もさらにできるであろうとも思っています。例えば、今では世界的に人気なヨガ。昔は今のように誰もが体験しやすいものではなく、海外のいわゆるセレブが健康のために行うものというイメージがありました。
日本で言うとそれがおふろなのかなとも思っています。初めは海外の富裕層の方が試すようなものであったとしても、SNSなどでの情報発信によってブームを巻き起こす可能性はあると思いますし、そうなれば良いなと思います。またそれが逆輸入みたく、日本人の意識を変えてくれることもあるとも思っています。
ノーリツ:バスタブの文化というのは日本以外だとまだまだ少ないので、今おっしゃっていたおふろブームが世界的に起こるといいですよね。
早坂教授:日本に来ておふろを体験したことで、おふろファンになって帰っていく海外の方は多いと聞きます。
銭湯や温泉だと人と一緒という点で慣れない方は多そうですが、ホテルには必ずバスタブが用意されているなどを徹底できれば良いなと考えます。できればユニットバスではなく、トイレとバスタブは分け、より日本式の入浴が体験できれば理想的ですね。なのでまずは海外に向けて、おふろの情報を発信していきたいという想いはあります。
また海外問わずテレビなどのメディアに出るという点においては、研究者としてどうなのかと考えることもありますが、私にはより現場の方に情報を伝えたいからという思いがあるんです。
研究を行うと通常研究論文を掲載したり学会で発表を行うのですが、私も初めの頃はそれで満足していました。しかしいくら研究論文を発表しても、例えば入浴介護の現場の方には全く伝わっていないということに気づきました。おふろのことを本当に知りたい人に情報が届かないことはもったいないなと。
このことに気づいてから、ただ、論文を研究者向けに発表するだけではなく、一般の方に向けても発信をしていこうと心を入れ替えました。ですので、今でも積極的にメディアの取材を受けるようにしています。
ノーリツ:私も、人々がこんなにもおふろに興味を持っていただけるようになったのには、教授のおかげであると非常に強く感じています。海外の方にとって、おふろが日本の奇妙な文化で終わるのではなく、良さを理解してもらえるようになるといいですよね。
⑧日本温泉気候物理医学会の大会長に就任されましたが、2025年5月のイベントに向けて告知や意気込みがあればお聞かせください。
ノーリツ:最後になりますが、来年大きなイベントを控えているかと思いますので、その意気込みをお聞かせいただけますか。
早坂教授:日本温泉気候物理医学会という温泉医学に関する学会が戦前からあり、来年ちょうど第90回目を迎えての、大きな総会があるんです。その大会長になりました。100回目を目指し、今後の温泉やおふろに関して、研究者は何を研究していくべきかということを考える機会にしたいなと思っています。
先ほども話に挙がっていた高齢化社会においても、どういう研究を行い、どう発信していくべきなのかはこの先非常に大事になってくると思っていて、きちんと発信すべき情報は発信する必要があり、研究すべきことはする必要があると思います。
ノーリツ:日時の詳細も教えていただけますか。
早坂教授:2025年5月24、25日、横浜シンポジアという場所で開催されます。今回は多くの人に支援をしてもらいたいので学会として初めてクラウドファンディングにもトライしてみます。
ノーリツ:ノーリツとしてもお手伝いできることあればご協力させていただきたく思っております。本日は貴重なお話しありがとうございました!今後の教授の活躍を心より応援しております。
【早坂教授インタビュー記事】
【早坂教授インタビュー】入浴のプロが答えるいいおふろとは?(前編)
【早坂教授インタビュー】入浴のプロが答えるいいおふろとは?(中編)
【紹介著書】
最高の入浴法
https://www.daiwashobo.co.jp/book/b375374.html
入浴は究極の疲労回復術