今回おふろ部では、東京都市大学の早坂信哉教授にインタビューを行い、おふろにまつわるノウハウをご教示いただきました。
【前編】【中編】【後編】の三部作に分けてお届けします。
東京都市大学人間科学部教授・博士(医学)・温泉療法専門医
早坂信哉
宮城県での高齢者医療の経験から入浴の重要性に気づき4万人以上の入浴を調査した、入浴や温泉に関する医学的研究の第一人者。「世界一受けたい授業」「あさイチ」「チコちゃんに叱られる!」などテレビやラジオ、新聞や講演など多方面で活躍中。著書「入浴検定公式テキスト」(日本入浴協会)、「最高の入浴法」(大和書房)「おうち時間を快適に過ごす入浴は究極の疲労回復術 」(山と溪谷社)など。東京都市大学ではゼミでおふろ部学生の指導もしている。
前編はこちらよりご覧ください!
【早坂教授インタビュー】入浴のプロが答えるいいおふろとは?(前編)
④最近の著書「入浴は究極の疲労回復術」では『温冷交代入浴』をおすすめされていますが、どのような入浴法ですか?
ノーリツ:先生の著書(入浴は究極の疲労回復術)では温冷交代入浴という言葉が多く見られましたが、こちらはどのような入浴法なのでしょうか。
早坂教授:温冷交代入浴は積極的に疲労回復を望む場合や、身体的な疲労がある場合におすすめの入浴法です。前編では血流の改善が疲労回復に大事だという説明を行いましたが、よりその効果をもたらしてくれるのが温冷交代入浴で、元々はアスリートの方が試合後などの疲労回復に利用していた方法です。
温かいお湯に浸かると血管が拡張し、冷たい水を浴びると逆に収縮します。この2つを繰り返し行うことで、血管がポンプのように伸縮し血流が改善できるというものです。この入浴法に関しては海外からもたくさんの研究結果がでています。
ただ海外の場合だと、温かいお湯がぬるま湯だったり、冷たい水の温度が非常に低かったりと全体的に温度が低めなんです。
日本人の場合、全体的にもう少し温度が高くても良いと思っていて、具体的には40度のお湯に3分を推奨しています。冷たい水もキンキンに冷えたものである必要はなく、温かいお湯と10度程度の温度差があれば大丈夫です。40度の温かいお湯の場合、冷たい方は30度、もう少し冷やしたい場合は25度くらいが目安で1分間浴びるようにしてください。
「40度のお湯に3分、30度の水に1分」これを3回ほど繰り返し、最後は温かいお湯で終了する、この一連の入浴法が温冷交代入浴で、ご家庭でも試しやすいかと思います。ただし、血圧の高い方や心臓病、脳卒中の既往のある方は主治医に確認してからが良いでしょう。
ノーリツ:サウナではかなり冷えた水風呂が用意されていることが多いですよね。自宅で行う場合とは異なるのでしょうか。
早坂教授:サウナも本当は水風呂までいかなくても良いと思っています。交感神経を刺激することが目的なので、ヒヤッと感じる程度で実は十分なんです。もちろん、冷たければ冷たいほど刺激も強く血管の収縮も激しいので、血流の改善がより促される可能性はあります。ただ逆に血圧が上がってしまうリスクもあるので、安全面を考えれば家庭で行うには25〜30度のちょっと冷たいと感じる程度で十分であると考えています。
ノーリツ:著書によると、シャワーでも効果があると書かれていますが、どのような理由なのでしょうか。
早坂教授:温冷交代入浴で一番重要なのは「温度差がある」というところで、冷たいものが体に触れると交感神経は刺激されます。なぜ冷たい水が必要なのかというのは、体を冷やすためではなく、交感神経を刺激するためです。なので全身を水につけなくても、手先や足先に冷たいシャワーをかけるだけでも体は「冷たさ」を感じ、交感神経の収縮スイッチが入ります。
ノーリツ:水風呂をサウナの楽しみの一つとして感じている人も結構いると思うのですが、本来はリスクの高い行為ということなのでしょうか。
早坂教授:昔からサウナを利用していて体が慣れているのであれば良いですが、そうでもない方の場合、急にはやらない方が良いと思います。サウナは特に冷たい水風呂で血圧が急上昇しますし、心臓の周りの血管も収縮するので、狭心症などを起こす可能性が高いです。特に中高年以降の方は気をつけるべき点だと思います。
ノーリツ:ありがとうございます。
また著書内では、温冷交代入浴は疲労だけでなく体の冷えも取ることができ、女性にもとてもおすすめだと拝見しました。おふろ部の読者は9割が女性というのもあり、ぜひおすすめの理由も教えていただきたいです!
早坂教授:体の冷えに悩んでいる方には、手足の末端が冷えるというタイプが多いです。この手足の末端の冷えというのは、局所的に血流が悪くなっている状態といえます。温冷交代入浴で血流をよくすることによって改善が見込めますし、気になる部分に対してだけ温冷交代浴を行うということもできます。
ノーリツ:血行を良くすることは女性にとっては非常にメリットがあり、美しくなるとも書かれていましたがそのような効果もあるのでしょうか。
早坂教授:正確に言うと、美しくなるサポートはできますね。血流が良くなることで、皮膚のターンオーバーや血色を良くすることにも繋がります。
また、私も多方面で取材をいただく機会があり、中には女優さんに取材をされる美容系ライターの方々ともお会いすることがあります。そういった方からも、主観的な感想ではありますが日頃おふろにしっかり浸かっている女優さんの方が、お肌の調子が良いように感じるという話も聞きますので、血流が良くなることで皮膚の状態も良くなるのかなと思いますね。
ノーリツ:そうなんですね。美しくなるにあたり、あわせてスキンケア6ヶ条といった内容も書かれていましたよね。
①42度以上の熱いお湯に入らない。
②湯上がりのスキンケアは10分以内に行う。
③15分以上は長風呂しない。
④1日に何度も入浴をしない。
⑤洗顔、ボディソープは使いすぎない。
⑥タオルやスポンジでゴシゴシ洗わない。
これらをすることで美肌につながるそうですが、なぜでしょうか?
早坂教授:
①42度以上の熱いお湯に入らない。
42度以上だと肌が傷むという研究が実際にあります。目玉焼きに例えてみましょう。卵のタンパク質に熱を加えると、生卵は元の構造を保てず変性し目玉焼きに姿を変えます。同じように肌もタンパク質でできているため、42度以上の熱すぎるお湯は肌に影響を与えてしまうのです。
②湯上がりのスキンケアは10分以内に行う。
これに関しては、過去私は研究を行ったことがあります。おふろ上がりに肌が乾燥するというのは、おふろに入ることで起こるセラミド(肌のバリア機能成分)の流出や皮脂が取れすぎてしまうということが原因なんですね。ただこれはどうしても起きてしまうことでもあります。そしておふろから上がって10分すると急速に肌の乾燥が進んでしまうことも分かりました。なので肌が潤っている10分間のうちに保湿をした方が良いという訳です。
③15分以上は長風呂しない。
②で話したセラミドの流出や皮脂が取れすぎてしまうということに関して、長風呂がそれを悪化させてしまうのであまり長すぎは良くありません。
④1日に何度も入浴をしない。
何度もお風呂に入りすぎると保湿を支えてくれる皮脂が取れ過ぎてしまいます。入浴は1日1回で十分と思いますが、多くても2-3回までにするとよいですね。
⑤洗顔、ボディソープは使いすぎない。
石鹸などは使いすぎると皮脂を取りすぎてしまったり、角層を剥がしすぎてしまうということが起こります。皮脂は自分で作り出す保湿剤でもありますので、それをどんどん取っていってしまっては、乾燥も進んでしまいますよね。お湯で流す程度やおふろに浸かるくらいがちょうど良いのではないかと思っています。また中高年以降は皮脂自体が減るので、なおさら気をつけた方がいいです。
⑥タオルやスポンジでゴシゴシ洗わない。
おふろに入ると垢が出ると言われていますが、実はこれ汚いものではないんです。垢と聞くと汚れのように思うのですが、角層の一番表面部分が剥がれているだけで、角層自体は体の内側を守ってくれている役割もあります。なのにそれをゴシゴシ擦ってしまうと、必要ない部分まで剥がれてしまい、内側が剥き出しになってしまうような状態を作り上げることになります。内側を守れなくなるとかゆみが出てきたりするので、擦りすぎは良くないです。
ノーリツ:今のお話しを聞いてあることを思い出しました。以前、某製薬会社さまとお話しする機会があったのですが、先ほど説明いただいた内容をとても丁寧に説明いただいたんです。肌の乾燥やセラミドの話などは男性女性問わず関係のあるお話しだとおっしゃっていましたね。
早坂教授:そうですね。なので未だに数年前に行った研究結果を使用したいとか転載させて欲しいなどのお話しは年に3、4回はいただきますね。
ノーリツ:おふろ部でもダイエットやスキンケアなど美容に関わる記事は人気ですので、興味を持たれる方は多く、その分悩みも多いのかなと思うので伺えてとても良かったです。
⑤同著書内で「睡眠」についても言及されています。良い睡眠と体温の関係についても聞かせてください。
ノーリツ:弊社でも最近、質の良い睡眠サポートについて取り組んでいるのですが、著書内では質の良い睡眠には体温との関係が大事であるというところをお話しされていましたよね。眠り初めの90分が大事と書いてありましたが、どういうことなのでしょうか。
早坂教授:おふろに入るとこのように(下写真のグラフ)体温は上がります。この上がった体温が下がるまでの時間が90分と言われています。
そしてこの90分後に入眠をするといいということです。グラフで見ると入浴しない時と比べて、入浴後は体温が一旦上がった後、急激に下がっているように見えますが、実はこの急激な変化が良い睡眠には大事だと研究で言われています。シャワーだと入浴と比べ体温が上がらないため、急激に下がることもなく、良い睡眠には繋げにくいのです。
ノーリツ:シャワーだとやはり体温は上がりにくいのでしょうか。
早坂教授:そうですね。シャワーだと大体0.1〜0.2度程度しか上がらないんですよ。よほど長い時間シャワーを浴びるなどすれば話は別ですが、普通のお湯の使用量であればそこまで上がることはないと言ってもいいでしょう。なのでこのことからも入浴が大切であると言えると思います。実験的な結果でもそうですが、多くの方を対象としたアンケート調査でも、よく眠れる人の割合は毎日湯船に入っている人が多いと分かっています。
ノーリツ:入浴を推奨するにあたって、非常におすすめのポイントになりますね。ぜひこのお話しをたくさんの人に知っていただきたいですね。
次回【後編】では、現代の様々な問題と入浴の関わり方について深く解説していきます!
高齢化社会におけるおふろのあり方や、最近の早坂教授の活動の狙いなど現代の暮らしに関わるお話し聞いてみます!お楽しみに!
【早坂教授インタビュー記事】
【早坂教授インタビュー】入浴のプロが答えるいいおふろとは?(前編)
【早坂教授インタビュー】入浴のプロが答えるいいおふろとは?(後編)
【紹介著書】
最高の入浴法
https://www.daiwashobo.co.jp/book/b375374.html
入浴は究極の疲労回復術