おふろ×健康

【早坂教授インタビュー】入浴のプロが答えるいいおふろとは?(前編)

2024-10-07

こんにちは、おふろ部編集部です。

今回おふろ部では、東京都市大学の早坂信哉教授にインタビューを行い、おふろにまつわるノウハウをご教示いただきました。

【前編】【中編】【後編】の三部作に分けてお届けします。


東京都市大学人間科学部教授・博士(医学)・温泉療法専門医

早坂信哉

宮城県での高齢者医療の経験から入浴の重要性に気づき4万人以上の入浴を調査した、入浴や温泉に関する医学的研究の第一人者。「世界一受けたい授業」「あさイチ」「チコちゃんに叱られる!」などテレビやラジオ、新聞や講演など多方面で活躍中。著書「入浴検定公式テキスト」(日本入浴協会)、「最高の入浴法」(大和書房)「おうち時間を快適に過ごす入浴は究極の疲労回復術 」(山と溪谷社)など。東京都市大学ではゼミでおふろ部学生の指導もしている。


ノーリツ:本日はよろしくお願いいたします。

テレビや著書などで先生の入浴法がたくさん紹介されているので、日々参考にさせていただいております。本日は先生とおふろの関わり、特に著書内ではされていないようなお話しや、多面的な活動内容なんかもお聞きしたいと思っています。

①温泉やおふろとの関わりについて教えてください。

ノーリツ:先生は元々、大学に入る前はお医者さまとしてご活躍されていたということですが、そういう活動が温泉やおふろとの繋がりになったのでしょうか。

早坂教授:温泉やおふろとは、おそらくもう25年ほど関わっていますね。元々私の出身の自治医科大学は、地域医療を専門としている大学というのもあり、卒業後は自分の出身地に戻って決められた期間勤務をしなければならない決まりがありました。私は宮城県出身なので、宮城に戻って勤務をしていましたね。すると圧倒的に高齢者が多いんです。中にはおふろに入れないような方も多くて。

介護保険が始まる前だったんですが、足腰が立たなくなり寝たきりになってしまうと、いわゆる訪問入浴やデイサービス・デイケアという施設に連れて行っておふろに入れることが必要となってくるんです。それは高齢者が自由に入るという訳ではなく、看護師が入浴前に体調を確認しなければなりません。入浴サービスは1週間に1回程度の順番なので、その日を楽しみにしている高齢者は多いんです。

ただ、ようやくおふろに入れると思っても血圧が高く断念せざるを得ない場合もあるんですよね。楽しみすぎて血圧が上がってしまう人もいたのかもしれません(笑)

高齢者の方にとっては待ちに待った日なので、そういう時は「なんとか入れて欲しい」と看護師にお願いするんです。内科医に勤めていた当時は、訪問中の看護師が判断に困って、よく相談の電話がかかってきていましたね。

当時は主治医として勤めていたので、日頃の患者の血圧状態や体調で判断していたのですが、これって実は正確な根拠のあるものではないんですよ。血圧がいくつまでなら安全に入浴できるのか、もちろん当時も論文などで調べるのですが、しっかりした根拠は書いておらず、おふろに関する研究があまり進んでいない状況でした。このことが地域医療をやっていて気づいた点でしたね。

その後、大学院に戻って研究をする機会があり、研究テーマとして「訪問介護の現場ではおふろに入れる可否判断ができないためガイドラインのようなものを作りたい」という相談を教授にしました。すると教授からも「大事な事柄なので研究を進めるように」と賛成の意見をいただき、1998年~2000年あたりから研究をスタートさせたというのが経緯です。

なので今の仕事をしているのは元々温泉やおふろが好きで、という理由ではなく、これらのことがきっかけにありました。当時はおふろの研究内容を発表する先がなかなかなかったのですが、温泉であれば学会があったのでそこで自身の研究を発表していました。おふろも温泉とは深い関わりがあるので、自然と研究の対象に入っていた感じです。

ノーリツ:実際に現場で必要性を感じ、行動に起こしたことはすごいことですよね。

早坂教授:人がやっていなかったことでしたし、他の医学部の大学院生たちは遺伝子やら分子生物学やら難しい内容の研究ばかりで、私の研究に対して違和感しかなかったかもしれません。しかし地域医療には重要な話であったため、強い気持ちで研究をしていましたね。

ノーリツ:私も介護が必要な身内がいるのですが、血圧を下げないといけないと分かってはいても入浴を楽しみにしていて、高齢の方はあるあるなのかもしれませんね。現在の高齢社会において必要なテーマだと感じます。

②「最高の入浴法」という著書では、医学的に正しい入浴法が数多く示されていますが、誰でもできる究極の健康入浴法を教えてください。

ノーリツ:お話しいただいた流れで研究をスタートされて、おふろの研究家としては、今や右に並ばれる方はいらっしゃらない状態になっているのかなと思っています。おふろ部で講演をしていただいたこともありましたよね。

さて、先日『最高の入浴法』を拝読させていただきました。最高の入浴は「40度のお湯に全身浴で10分間」がよろしかったでしょうか?

早坂教授:そうですね。リラックスするための副交感神経スイッチを入れる、かつ体を温める、かつのぼせないとなると大体そのくらいの温度と時間になってくると思っています。

浸かり方は全身浴や半身浴などありますが、浮力や水圧をしっかり感じるという点では全身浴の方がいいです。こういう症状にはこういう入浴法がいい、など多少バリエーションはありますが、今説明した入り方が基本です。

ノーリツ:この基本さえ守っていれば、大丈夫なのでしょうか?

早坂教授:「40度のお湯に全身浴で10分間」というのは分かりやすく簡略化した伝え方になるので、細かくいうと人によって差はあったりします。

最近で言うと他の先生方が年齢によって体温の上がり方が違うなどと研究されていましたし、あくまでも覚えやすい数字というところでお伝えしています。

入浴の三大効果について、特に重要なものとは?

ノーリツ:弊社内では入浴の三大効果として「温熱効果」「浮力効果」「水圧効果」を提唱しているのですが、先生から見て特に重要だと思う効果はありますでしょうか?

早坂教授:その3つの中では温熱効果が一番大事だと思っています。体が温まることで、血管が広がり血流が良くなるというところが大きなメリットです。

人間の体を構成している細胞1つ1つが生きていることで、我々も生きているんです。細胞は血液から栄養分と酸素をもらい、化学反応を起こしてエネルギーやタンパク質を作っています。

エネルギーを燃やすには酸素を使うので、その際のいらない老廃物として二酸化炭素が出てきます。この老廃物を回収してくれるのも血液の役目ですから、総じて人間が生きていく上で重要なものというのは血液の流れであり、体調を整えるのに必須です。そして人間に一番必要な作用の土台になっているの血流を改善してくれるのがおふろなんですよ。

美容においても同様で、日々のターンオーバーという皮膚を新たに再生させる力は血流が良くなることによって働くものです。

極論、血流が止まってしまうと、そういう組織が悪くなってしまう。例えば床ずれなんかはイメージしやすいかもしれません。寝たきりの状態が続くと、体重で圧迫される場所の血流が悪くなり皮膚が変色したりします。

そして体を温めることによって痛みが取れるというところもメリットですね。慢性の神経痛などは温めることによって、神経の過敏性が取れてくるので痛みが和らぎます。また関節が柔らかくなってくることも。関節を包んでいる靭帯はタンパク質、つまりコラーゲンでできているので温められると柔軟性が増すんです。関節が柔らかくなることで痛みの緩和にも繋がります。

その他にも体温が上がることで、一時的にでも免疫細胞が活性化するので、免疫力が上がったり、質の良い睡眠にも繋げられると言われています。

最後に自律神経への影響ですかね。これは湯温も関係してくるのですが、42度以上のお湯だと交感神経のスイッチが入ってしまい、体が興奮状態となり逆に疲れてしまいます。一方で40度のぬるめのお湯だと、副交感神経のスイッチが入るのでリラックスでき不安などが解消されやすくなります。

このように体を温める効果は、いろいろなことに関係してくるので本当に大事です。ですが浮力効果や水圧効果も湯船に浸からないと得られない効果なので大切です。

浮力は、肩まで浸かると体重が10分の1になると言われているので、体のリラックスに繋がります。水圧も体を締め付けてくれ、特に下半身に溜まった血液を心臓に押し戻してくれる働きがあり、いわゆるむくみの改善に繋がります。

温熱効果に比べたら脇役みたいに見えるかもしれませんが、シャワーでは絶対に得られない効果なんです。

③季節の変わり目ですが、暑い日がまだまだ続きそうです。気温の高い日はシャワーだけでいいという意見も多いのですが、快適なおすすめの入浴法があれば教えてください。

ノーリツ:気温の高い日は特に体を温めたいというより、クールダウンしたいなという日もあると思います。また日常的にシャワーで済ましてしまう若い方も多いので、おすすめの入浴法があれば教えていただきたいです。

早坂教授:本当は気温の高い日、夏なんかでもでも40度10分が良いのですが、おふろ上がりが暑いという方も確かにいらっしゃいます。元々気温が高く体温も上がりやすいので、その場合には38度程度のぬるめのお湯に20分入っていただくことをおすすめしています。

ただそうすると体温はあまり上がらないんですよね……。

体温が上がらないと血流も良くならないので、先ほど説明した効果も出にくくなります。なのでぬるめのお湯にする場合は、効果を補うためにも「炭酸ガス系の入浴剤」を使うことをおすすめしています。炭酸ガス系の入浴剤は皮膚から炭酸ガスを吸収します。これは温度関係なく血管を広げてくれるんですよね。なのでこの方法であれば、血流の改善は一応得ることができるのです。

また、なぜ夏もおふろに入った方がいいのかという話ですが、3、4年前に私の方で介護予防においての研究を行いました。夏に毎日湯船に入る方と週に2回までの方を比べると、介護状態に陥るリスクが28%下がることが分かりました。ですので夏でもおふろには入った方が良いんです。

うつ病に関する話も去年論文を発表したのですが、冬の方がうつ病のリスクを下げやすいものの、夏の入浴でも16%リスクを下げることができ、色々な面でプラスだと思います。

良く眠れるという短期的な効果もあれば、健康づくりに役立つ長期的な効果も夏の入浴のメリットですよね。

ノーリツ:病気に関する効果は、研究によるエビデンスもありとても信ぴょう性を感じました。

早坂教授:夏の入浴が良いことは最近の研究からも言えてきているので、おすすめしていきたいですね。

ノーリツ:加えて水分を取ることも大事だとおっしゃられていましたよね。逆に水分を取らないとどうなるのでしょうか。

早坂教授:脱水です。体の水分が抜けてしまうと、体の機能そのものが全体的に落ちてしまいます。極論、死に至る可能性もあるんです。やはり生命を維持するには水分が必要です。

いろいろな研究があるのですが、1回の入浴で500~800mlの水分が失われてしまうと言われているので、入浴前にも水分をとる必要があるし、長めにお湯に浸かるなら途中でも補給した方がいいです。もちろん出た後も飲んだ方がいいですね。結局脱水症状は入浴後半に出てくるものなので、それを防ぐためにはあらかじめ入浴前や途中に水分補給をした方がいいのです。

また真夏の入浴はそもそも浴室も暑くなっているので、ぬるめのお湯に浸かったとしても、汗をかく可能性があり水分補給をおすすめします。

ノーリツ:入浴前の水分補給を意識できている人は少なく、そのままおふろに入ってしまう方が多いイメージがあるので、この辺りのお話はしっかり読者にもお伝えしていきたいですね。

【中編】では、日常生活をさらに快適にする入浴について解説していきます!

その他にも疲労回復術や睡眠など、我々の生活に影響を与える入浴法について詳しく解説していただきました。以下からもご覧いただけます。

【早坂教授インタビュー】入浴のプロが答えるいいおふろとは?(中編)

【紹介著書】

最高の入浴法

https://www.daiwashobo.co.jp/book/b375374.html

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