


2026年4月、温泉地の再生に挑み続けてきた実践者の記録が、一冊の本として販売されました。そのタイトルは「なぜ、空き店舗が連なる温泉地が再び活気を取り戻したのか」。
本書は、蔵王温泉を中心に、地域の課題と真正面から向き合いながら観光地の再生に取り組んできた実践の記録です。机上の理論ではなく、悩み、迷い、孤独と向き合いながら進んできたリアルな地域づくりの物語が綴られています。

今回は出版にあたり、著者である竹直也さん(以下、竹さん)にインタビューを行いました!本書に込めた想い、そして蔵王温泉での取り組みの裏側をお届けします。

竹直也(たけ・なおや)
北海道旭川市出身。株式会社リクルート入社後、蔵王温泉の観光、観光地域づくりに携わり、2017年に株式会社 LABEL LINK を創業。2020 年には蔵王温泉に賑わいをつくるため、温泉コーデショップ「Zao Onsen 湯旅屋 高湯堂」をオープン。
「蔵王温泉」とは?
『蔵王温泉』は、山形・宮城にまたがる蔵王連峰を中心にした自然景観に加え、古くから湯治場として知られる温泉、冬のスキーと多くの観光資源で知られる人気の観光地です。しかし、つい数年前まではメイン通りでも空き店舗が目立ち、閑散とした雰囲気が広がっていました。
本書は、一人の若者が地域の課題解決に寄り添い続けた結果、温泉街の再生を果たす挑戦の物語です。営業職からじゃらんリサーチセンターへの異動、そして独立へ。立場が変わっても変わらなかった「地域への想い(志)」が、数々の困難を乗り越える原動力になっていることは間違いありません。
おふろ部では、地域の課題解決に取り組む姿に強く共感し、今回の取材を行いました。

東北の力になりたい!リクルートに契約社員として入社、じゃらんの営業担当に
竹さんは北海道出身です。日本一周を2回するほど旅が好きでしたが、2011年に起きた東日本大震災をきっかけに「東北の力になりたい」という想いが芽生え、仙台へ移住しました。
2012年、旅行情報誌『じゃらん』の営業担当としてキャリアをスタート。そして最初に担当した地域が“蔵王温泉”でした。
「日本一周の旅で訪れ、自分が見てきた“景色”や“経験したこと”がたくさん無くなったり、失われたりしました。もちろん地元の方が1番悲しい思いをしていると思いますが、私もとてもショックを受け、なんとか東北の力になりたいと思ったんです。」(竹さん)
蔵王温泉の第一印象は「優しくてぬくもりのある温泉地」であった一方で、誘客には多くの課題がありました。
じゃらん本誌の特定号に蔵王特集を集約するなど、営業として大きな成果を出し、社内の営業MVPにも選出。しかし、蔵王全体の誘客という視点では、まだ解決すべき課題が残っていました。
エリアプロデューサーとしての仕事
2015年、正社員試験に合格し、4月にJRC(じゃらんリサーチセンター)広島支社へ異動することになりました。そこでは四国担当のエリアプロデューサーとして、行政・観光協会と連携し、観光地域づくりに携わります。
主な業務は以下の通りです。
- ・調査・分析
- ・行政向け企画・報告書作成
- ・地域の観光計画・ビジョン策定
- ・観光人材育成

当時から社内外で「蔵王といえば竹さん」といわれるほど、蔵王への想いを語り続けていました。周囲の応援や期待があったからこそ、「その期待を裏切りたくない」という気持ちが覚悟につながっていったといいます。
「どんなに厳しい状況でも、応援してくれた人たちを裏切りたくなかった。逃げ場がない状況だったからこそ、覚悟を持つことに迷いはありませんでした」(竹さん)
ここで得た知識・経験・アイデアを「いつか蔵王温泉に還元したい」という想いを胸に2年間取り組み、2017年4月に東北支社へ異動しました。
日本初の温泉コーデショップ「高湯堂」

2020年1月、温泉地の来訪客向けに対して『あなただけの、温泉コーデ。』をコンセプトにしたセレクトショップ『Zao Onsen 湯旅屋 高湯堂』をオープン。
温泉地にはこれまでにも、ご当地菓子や雑貨を扱う小売店は存在していました。一方で高湯堂は、オリジナル商品や体験型のお土産を通して「温泉を楽しみ、温泉街を楽しむ」ことを提案する、日本初の“温泉コーデショップ”。全国を見渡しても同様のモデルは存在せず、試行錯誤の中で形にしていったといいます。
「高湯堂は地域にとって、なくてはならない存在になったといい切りたいですね」(竹さん)
『Zao Onsen 湯旅屋 高湯堂』は高湯通りにある温泉に関する店であり、旅の途中で立ち寄る店というイメージを込めた店名にしました。
通年営業は厳しいと分かりながらも覚悟を決めて開業。3年後には『TAKAYU温泉パーラー』も誕生し、いまでは温泉街を訪れる人の目的地の一つとして、地域に欠かせない存在となっています。

ターゲットに選んだのは首都圏の30〜40代女性
ターゲットに設定したのは、温泉旅行を楽しむ首都圏在住の30〜40代女性。蔵王温泉の宿泊予約データによると、関東圏が30〜40%、冬季は50%を占めていました。
なぜこの層を選んだのか。背景には、ものづくりを「しかるべき価格で、しかるべき人へ届けたい」という考えがあります。良いものを見極め、価値に投資でき、さらに上下世代へ影響力を持つ、そんな視点から導き出されたターゲットでした。
具体的なマーケティング施策や思考プロセスについては、著書でより詳しく語られています。地域ビジネスに関わる方にとっても、大きなヒントになるはずです。
また竹さんは、この本を「地域に関わろうとする人への一冊」だと語ります。
「都市部の人が地域に入って失敗するケースは多い。本気で地域と向き合う前に、ぜひ読んでほしいですね」(竹さん)
『地域の継承、心に響く旅』
2019年、竹さんはリクルートを退社し、LABEL LINKの経営に専念します。
・経営理念:「私たちは、地域や旅する人にとって、唯一無二の伴走者となる。」
・事業コンセプト:「地域の継承、心に響く旅。」
著書には、竹さんが、地域と向き合う時に意識していることがいくつかあげられています。
六方よし:売り手・買い手・世間の三方よしに加え、地域住民や行政、教育・マスコミへの配慮
地域貢献:真の仲間と認められれば支え合える関係になる
意志ある地域づくり:「この地域を守り受け継いでいこう」という意志を持つ地域に共感し、その魅力を来訪者へ適切に届けることを重視

LABEL LINKは現在、山形県蔵王温泉の高湯堂とTAKAYU 温泉パーラー、宮城県遠刈田温泉の蔵王堂、熊本県黒川温泉の黒川堂の4店舗と仙台空港でもショップを運営しています。
竹さんは経営者として最も大切にしていることを、次のように語ります。
「店舗がある地域では“主体者”として関わり、唯一無二の存在になることを大切にしています。だからこそ中途半端な関わり方はしません。広くではなく、狭く深く。5年、10年、20年と長く地域と向き合い続けたいと思っています」(竹さん)
今後については、店舗数を闇雲に増やすのではなく、地域と深く関わる姿勢を重視していく方針です。2027年オープン予定の福岡空港での新店舗立ち上げを進めながら、温泉や地域のものづくりの魅力を丁寧に届けていきたいと語りました。
「広げすぎると唯一無二ではなくなってしまう。だからこそ、関わる地域には誠実に向き合い続けたい」(竹さん)
地域と旅する人の双方に寄り添う“伴走者”としての挑戦は、これからも続いていきます。
著書に込めた想いと読者へのメッセージ
最後に、著書を通じて一番訴えたいことをお聞きしました。
「これから地域で何かを始めたい方、そしてすでに地域で活動しているものの、うまくいかず悩んでいる方。そのような方々の後押しになる本になればと思っています。」(竹さん)
地域活動は想像以上に孤独だともいいます。
「周りに相談できる人が意外といないんです。私自身も転職を重ねながら、地をはうように進んできました。だからこそ、“特別ではない一人でも、覚悟を持って地域と向き合えば未来は開ける”と感じてもらえたら嬉しいです。」(竹さん)
蔵王温泉での取り組みも、街づくりについて真剣に相談できる相手が近くにいなかったことが印象に残っているからこそ「同じ思いを持つ人たちを後押ししたい」。その想いがたくさんの方に届くことを願います。

また、おふろ部の読者に対しても、
「温泉を楽しむのはもちろんですが、ぜひ“温泉街”も楽しんでほしい。温泉地には突然生まれた場所はほとんどありません。昔から根付く文化や大切に守られてきた景色があります。
温泉はリラックスする時間だからこそ、ふと『この地域にはどのような歴史があるのだろう?』と少しだけ思いを巡らせて、街を歩いてみてほしい。その体験が、地域の人にとって本当に嬉しいことです。」(竹さん)
と語ってくれました。
今回のインタビューを通し、著者の地域課題の解決への意欲と覚悟を改めて感じました。同じように温泉街の賑わい、おふろ文化を未来へつなぎ続けていきたい思う人々を、おふろ部も一緒に支えていきたいと思います。また、著書「なぜ、空き店舗が連なる温泉地が再び活気を取り戻したのか」を気になった方はぜひ手にとって見てください。
・著書名:なぜ、空き店舗が連なる温泉地が再び活気を取り戻したのか
・著者:竹 直也
・出版社:株式会社游藝舎
・リンク:https://www.yugeisha.com/works/onsen_ishi/
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編集部おふろ部
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