おふろ部

昔々、お風呂が大好きな王様がいました。

王様はお湯に浸かるのが大好きで、一日に何度もお風呂に入ります。

仕事をほったらかしにしてお風呂に浸かることもあるので、周りの家臣たちは王様のわがままに手を焼いていました。

王様のお風呂には、広い湯船と洗い場があり、一人で入るには十分な大きさです。

しかし、そんな湯船に浸かりながら、ある時王様は思いました。

「わしは王様なのだ。もっと素晴らしい、いいお風呂を造らせることにしよう」

そうと決めたら、王様は早速家臣たちを呼び出して、アイデアを募りました。
突然の王様の提案に、家臣たちは困ってしまいました。
今のお風呂も、王様のために精一杯広く造ったものだったからです。
困りながらも、家臣たちは王様のためにたくさん考えました。
そして考えに考えた結果、家臣たちは一つのアイデアを提案しました。
「私たちの国は、星が綺麗に見えることで有名です。なので、今あるお風呂の天井の、一部分に穴を開け、きらきら輝く星が見えるお風呂にするのはどうでしょうか」

家臣が描いた絵には、湯船に浸かりながら星空を見ている王様が描かれていました。
とてもロマンチックなお風呂でした。
しかし王様は眉をひそめました。

「ただ、天井に穴を開けただけではないか。わしはもっと贅沢なお風呂に入りたいのだ」

王様は不機嫌になって、家臣のアイデアに文句をつけました。

「よし、国内だけでなく、他の国からもいいアイデアを集めることにしよう。そして選ばれた者に、褒美をとらせるのだ」

王様は周りの国からもアイデアを募ることにしました。
王様からの連絡を受けた近くにある三つの国は、王様の褒美が欲しくて、個性的なアイデアを考えました。
そして王様の元に、それぞれ急いで使者を遣わせました。
まず、石の国から一人目の使者がやってきました。

「器の大きな王様には、大きなお風呂が似合うでしょう。そして我が国で採れた、高価な大理石をふんだんに使って、ピカピカの床や壁のお風呂を造りましょう」

石の国の使者が持ってきた風呂の絵は、どこを見渡してもベージュの美しい色に輝いていました。

「なるほど、目を見張るほど美しい」

王様は使者の案に満足そうでした。

それから今度は、木の国から二人目の使者がやってきました。

「歴史のある国の王様には、何百年もかけてできた木材を使ったお風呂が似合うでしょう。壁や天井を希少な木材で組んで、味わい深いお風呂を造りましょう」

木の国の使者が持ってきた風呂の絵は、まるで森の中に風呂があるようでした。

「優しさも感じる、素晴らしいお風呂だ」

個性的なものが好きな王様は、嬉しそうに頷きました。
そして最後に、金の国から三人目の使者がやってきました。

「華のある王様には、きらびやかなお風呂が似合うでしょう。金箔を全面に貼り付けた、光り輝くお風呂を造りましょう」

金の国の使者が持ってきた風呂の絵は、見渡す限り、眩しいほどの金色に輝いていました。

「なんと豪華絢爛な」

贅沢好きの王様は、目を輝かせていました。
しかし、作るお風呂は一つだけです。
王様はすぐに決めることができずに迷ってしまいました。
その時、家臣たちは心配して王様に言いました。

「王様、どれも贅沢がすぎるのではないでしょうか。豪華なお風呂だけが、いいお風呂というものではありません」

家臣にそう忠告されても、王様は聞く耳を持ちません。
さらに欲張って、こう言いました。

「石の国、木の国、金の国、全ての案を交ぜ合わせて、一つのお風呂を造るのだ。きっと誰も見たことのないお風呂ができるぞ」

そうして、王様の独断で風呂の改築が行われました。
石の国から運ばれた大理石と、木の国から運ばれた希少な木材、そして、金の国から運ばれた金箔を使って建築が始まりました。
家臣たちは不安そうに見守っていましたが、やはり工事はそう簡単にはいきません。
全ての素材を使うことなど、無茶な注文だったからです。
さらにお風呂の工事中は、王様はいつもの大きなお風呂に入ることができません。
王様はそれが嫌で、それぞれの国からやって来た職人に、休みなく工事をさせました。
職人たちは、王様に急かされて作業の手を早めます。

「まだできないのか。早く完成させないと、褒美は抜きだぞ」

王様は我慢できずに、そんなことを言うのでした。
そしてその結果、予定よりも随分早くに王様のお風呂は完成しました。
その夜、王様は完成の知らせを受け、ワクワクした気持ちで浴室に足を踏み入れました。
すると、王様の目の前には、見たこともないような景色が広がっていました。
床、壁、天井が金箔の貼られた木材で構築されていました。金色の木が壁から天井に伸びています。
そしてその隙間を埋めるように、光沢のあるベージュの大理石が、独特の風合いで輝きを放っています。

「美しい……」

それは息を飲むほどに美しい景色でした。
王様は嬉しくなって、大きな浴槽にたっぷりたまったお湯に飛び込みました。
大理石で造られた浴槽には、全面に金箔が貼られています。
王様はお風呂に浸かって、ゆっくりと辺りを見渡しました。
急がせてよかった。そう思いながら、王様は湯けむりの向こうの天井を眺めていました。
すると、キラキラ光る粒が天井から舞い落ちてきました。

「何だ?」

湯の上に落ちた粒を手ですくってみると、それは金箔でした。天井に貼られていたものが剥がれ落ちたようでした。
すると突然、頭上からミシミシという音が聞こえて来ました。
王様は驚いて見上げます。
音は次第に大きくなっていき、次の瞬間、天井に大きなヒビが入りました。

「な、何事だ」

王様が立ち上がろうと思い踏み込むと、今度は浴槽の金箔が剥がれ、足を滑らせました。

「い、いかん」

王様はお湯の中で、なかなか立ち上がれずにもがきました。
その時、大きな音とともに、ガラガラと天井が崩れ始めました。
大理石の重さに木材が耐えきれず、次々と破片が落ち、湯に水柱を立てていきます。
王様が無理を言ったせいで、お風呂は頑丈な造りになっていなかったのです。

「わあああ」

大きな音を聞いて、家臣たちがやって来ました。

「王様、大丈夫ですか!」

天井が崩れたお風呂へと、王様を探しに家臣たちが入っていきます。

「だ、大丈夫だ……」

王様は瓦礫に囲まれていましたが、奇跡的に怪我一つしていませんでした。
それよりも、見るも無残な姿になってしまった自分のお風呂を見て、放心状態になっていました。
わがままばかり言った、王様に罰が下ったのでした。

「王様、見てください」

家臣が指を指しました。

なくなった天井の向こうには、きらきら輝く、満天の星空がありました。

「普段あるものに、ほんの少しの喜びを足してあげる。それがいいお風呂なのです」

家臣の言葉に、王様は深く頷きました。
それから王様は反省しました。自分のことを一番大切に思ってくれている家臣たちのために、精一杯働くようになりました。
そしてくたくたになった一日の終わりには、星空のお風呂で疲れを癒しました。

河邉徹

河邉徹

WEAVERのドラマーで小説家。お風呂は一日に何度も浸かる派です。 おふろ部では、お風呂の魅力が伝わるような物語を書いていけたらと思っています!

このライターの記事一覧

  • 前の記事を読む
  • 次の記事を読む

カテゴリー