「えがおのおんせん」
ある森の中に、誰も知らない小さな温泉がありました。
最初にそれを見つけたのはリスさんでした。
温泉を知らないリスさんが、おそるおそるお湯に浸かってみると、あまりの心地よさ に、リスさんは思わず笑顔になりました。
そんなリスさんの様子を見て、他の動物たちもやってきました。
今では同じ温泉の中に、リスさん、うさぎさん、こぐまさん、しまうまさん、かばさん が一緒に入っています。
みんな、温泉のおかげで仲良くなりました。みんな笑顔でお湯に浸かっています。
ある日いつものように、リスさんが温泉で体をあたためようとやってくると、なぜか他 の動物たちが遠くから温泉を眺めていました。
「あれ、みんなどうして温泉に入らないの?」
リスさんがきくと、うさぎさんは答えました。
「あんなところに、ライオンがいるんだよ」
リスさんが見てみると、なんと温泉の中に、一頭のライオンが浸かっていました。
金色 のたてがみ、鋭い牙に、太い足。
見つかったら、あっという間に食べられてしまいそうで す。
みんなはライオンが怖くて、温泉に入れないのでした。
「早くいなくならないかなぁ」
と、こぐまさんも体を小さくして言いました。
それからしばらく、動物たちはライオンがいない時にしか温泉に入れなくなりました。
温泉に浸かっている間も、ライオンが来てしまうのではないかと思うと、ゆっくり浸 かっていることができません。
ある日、また動物たちが、ライオンがやってくるのに怯えながら、温泉に浸かっていた 時でした。
「よーし、これが噂の温泉だな」
温泉の噂を聞きつけたたくさんの狐たちが、ホースを持ってやってきたのでした。
「全部吸い取って、家まで運んでしまおう」
そう言って、ホースで温泉を吸い取り始めました。
みるみるうちに、お湯の量は減って いきます。
先に温泉に浸かっていた動物たちは、自分勝手な狐に腹が立ちました。
しかし、狐たち は数が多いので、怖くて「やめて」と言うことができませんでした。
そんな時、突然木の陰からライオンが現れました。
狐に気を取られて、誰も近くにいた ことに気づかなかったのです。
温泉に浸かっていた動物たちは、驚いて動けませんでした。
食べられてしまう。
そう思いましたが、ライオンは狐たちに向かって大きな声をあげま した。
「ガルルル! 温泉は、みんなのものだ!」
ライオンが飛びかかると、狐たちは一目散に逃げていきました。
みんなの温泉は守られ たのです。
ライオンはそれから、何事もなかったかのように温泉に浸かり始めました。
みんなは、ライオンの見た目だけで、勝手に怖いと決めつけていたことを反省しまし た。
「ライオンさん、守ってくれてありがとう」
リスさんがそう言うと、ライオンは金色のたてがみを揺らして、少しだけ笑いました。
そして次の日、リスさん、うさぎさん、こぐまさん、しまうまさん、かばさんの骨だけ が、温泉に浮かんでいました。